新しい医療形態「バーチャルケア」の浸透
2021-08-27

セルスペクト(株)科学調査班編集
2021年8月27日更新

 新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)の中、感染リスクを最小限に抑え、必要なケアができる「遠隔医療」のサービス体制が、米国で確立しつつある。

「遠隔医療」とは、患者と接見せず、リモートで問診や診断をしたり、近くの医療機関の受診を勧めたりすること。パソコンやスマートフォンを使った予約や診察は、利便性が高く有効だと評価され、米国の遠隔医療利用者は、2019年には全患者数の11%程度だったが、2021年には46%まで上昇。患者の半数近くが、遠隔医療を利用している。

 アンケート調査によると、遠隔医療利用者の90%は「満足している」、80%が「医療問題が解決した」と回答。米国の非営利医療振興団体 Fair Healthの統計によると、新型コロナ感染の症例数が減少し、対面診療に戻る患者が増えているものの、遠隔医療の数は大きく減っていない。それどころか、医療保険全体に占める遠隔医療の割合は、4―5月は2%増えている。

 この遠隔医療の利用が広がる中で登場した言葉が、「バーチャルケア(通称VPC=virtual primary care)」。リモート通信を用いた医療サービスや、これに関わるコミュニケーション全般を指し、遠隔医療よりもサービスが限定されない。そのため、医療サービスのIT化を進める医療機関は、遠隔医療ではなく、「バーチャルケア」と表記するケースが多い。

 新しい医療形態となりつつあるバーチャルケアを持続させるためには、健康保険制度(fee-for-service)の問題をクリアする必要がある。同制度の適用範囲が、バーチャルケアにおいては、かなり限定されているため、通院よりも患者が支払う医療費が増える場合がある。

 そのためバーチャルケアは、制度が適用される病気後の治療ではなく、大病を未然に防ぎ、医療費抑制につながる「予防医療サービス」分野に注力する動きがある。

 しかし注目すべきは、バーチャルケアは、収益モデルに関係なく、医療システム全体のコストを減らす可能性が高いということだ。初期段階は、機器操作や新たなシステムの対応に追われ、対面診療よりも作業負担が大きいかもしれない。しかし、回数を重ねて慣れてしまえば、対面よりも医療スタッフの作業効率が高くなるため、全体的なコストが減る。

 新型コロナの世界的感染が収まったら、対面ケアに戻りたいと思う患者もいるかもしれない。しかし、バーチャルケアは、もはやオプションではなく、新しい医療形態として確立しつつある。将来的には、患者と医療機関双方にメリットになる医療形態になるだろう。

 

 

引用文献:

  1. Spencer D. Dorn, 2021 “Backslide or forward progress? Virtual care at U.S. healthcare systems beyond the COVID-19 pandemic” npj digital medicine
  2. “Using Telehealth to Expand Access to Essential Health Services during the COVID-19 Pandemic” CDC Guideline
  3. Rebecca Pifer, March 17 2021, “Amazon Care goes nationwide with telehealth, courts outside employers” Healthcaredive
  4. Susan Kelly, August 11 2021, “CVS Health's Aetna unveils nationwide primary care telehealth service” Healthcaredive
  5. Bill Siwicki, May 24 2021, “Will virtual primary care become a new model of healthcare delivery?” HIMSS

 

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