感染初期に重症化を予測できる?
2022-01-14

セルスペクト(株)科学調査班編集
2022年1月14日更新

 

 新型コロナ感染で重症化に至る人は、高血圧や狭心症などの基礎疾患を持っていることが多いが、原因不明の場合もある。

 英国の科学雑誌ネイチャーの論文によると、感染者は「ナチュラルキラー(NK)細胞」の機能不全や、「サイトカインストーム(サイトカインの大量放出)」によって重症化に至るという。

 今回は、NK細胞の誤作動から重症化に至るメカニズムについて説明し、感染の初期段階で重症化を予見できる可能性について探る。

 

 

 まず、「NK細胞」とは白血球の一種で、体内に侵入した病原菌やウイルス、がん細胞を攻撃してくれる頼もしい免疫細胞だ。がん治療に用いられるイメージが強いが、新型コロナウイルスに対しても働く。

 

 ドイツの研究者らが、軽症から重症までの患者を調べたところ、重症患者に限っては、NK細胞の働きを抑える血中の「腫瘍細胞増殖因子(TGF‐β1)」の量が、非常に多いとわかった。

 大量のTGF‐β1によってNK細胞が働かず、重症化する。

 

 

 また、新型コロナウイルスが、細胞間の情報伝達を行うタンパク質「サイトカイン」の一種である「I型インターフェロン(IFN‐Ⅰ)」の働きを妨害していることもわかった。

 IFN‐Ⅰは、NK細胞を活性化させる物質。その指令がウイルスの作用でNK細胞まで届かないため、他の免疫細胞への活動命令が増大する。そうすると、「サイトカインストーム」が起こり、過剰な免疫反応で自分の細胞を傷つける現象=重症化に至る。

 

 サイトカインストームによる重症化は、感染初期に活躍する免疫細胞の一種「マクロファージ」の過剰増殖によって起こる。マクロファージは、細菌を食べて排除するが、活動時に活性酸素を放出する。サイトカインストームから活動が過剰になり、体内の活性酸素量が増え、血栓症や高熱、血管や臓器の炎症などを引き起こすのだ。

 

 新型コロナだけでなく、サーズ(SARS)やマーズ(MERS)のウイルスも、同様の妨害をすることが分かっている。ちなみに、先ほど出たTGF‐β1もサイトカインの一種だ。

 

 このように新型コロナの重症化は、NK細胞とサイトカインが大きく関係している。感染初期から重症化に至るまでのこれらの量、働きなどを徹底的に調べ上げて、規則性を発見できれば、重症化を予測できるようになり、重症化や死亡を防げる。研究の動向に注視したい。

 

 

引用文献:

  1. Emilie Narni-Mancinelli & Eric Vivier, Oct 25, 2021,“Clues that natural killer cells help to control COVID” Nature news & views
  2. Suchandrima Bhowmik, Aug 4, 2021, “The role of natural killer cells in the fight against coronavirus infection”News Medical Life Science
  3. Xiaochan Xu and Kim Sneppen, Aug 3, 2021, “The timing of natural killer cell response in coronavirus infection: a concise model perspective” bioRxiv pre-print.

 

 

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