セルスペクト(株)科学調査班編集
2022年8月26日更新
米疾病対策センター(CDC)は、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が始まった2020年に、大半の抗生物質が効かない菌「スーパーバグ (超多剤耐性菌) 」の感染者数が急増していたことを、今年6月に公表した。世界各国に薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)の問題に対する注視を促した。
「薬剤耐性(AMR)」とは、細菌やウイルス、カビなどが既存の抗生物質に対して耐性を持ち、治療が難しくなる現象。薬剤耐性を持つ菌の中でも、既存の抗生物質がほとんど効かない強力なものを「スーパーバグ (超多剤耐性菌) 」と分類する。
スーパーバグが急増した理由は、新型コロナ感染の入院患者の増加から、医療現場で抗生物質の使用が増えたことにある。
感染症を引き起こす細菌などは、ベッドや医療器具などに長時間付着する。中でも人工呼吸器やカテーテルなど、体内に挿入する器具に付着していると、感染の可能性がより高まる。
呼吸器系を損傷している場合が多い新型コロナの感染患者は、人工呼吸器などを使う機会が多いことから、他の感染症にかかっていない状態でも、重複感染(他の感染症にかかること)を防ぐために抗生物質が投与された。
CDCの調べでは2020年3月〜10月の間、新型コロナの入院患者の80%に抗生物質が投与された。
こうした抗生物質の過剰投与から、菌の耐性が強化。薬剤耐性(AMR)を原因とした2020年の入院、死亡者数は、前年と比べて15%増加し、死亡数は2万9,400人に上った。
抗生物質の過剰投与は、もともとスーパーバグだった菌の耐性も高めた。
大半の抗菌薬に耐性があり、重度の感染症を引き起こす抗真菌剤耐性のカンジダ・アウリス(Candida auris)の患者数は60%増加した。
抗真菌剤耐性カンジダ・アウリスと同様に大半の抗菌薬が効かず、肺炎や敗血症、尿路感染症などを起こす細菌、カルバペネム耐性アシネトバクターの患者数は70%増えた。
今後さらにスーパーバグに分類される菌が増えると、適切に治療すれば軽症で済んだ感染症の重症化・死亡の確率が高まる。また、スーパーバグの耐性力が高まれば、既存の抗生物質での治療が難しくなる。
薬剤耐性(AMR)対策として、米連邦議会は新しい抗生物質の開発を奨励する法案「PASTEUR Act(the Pioneering Antimicrobial Subscriptions to End Upsurging Resistance)」を2021年6月に可決した。
2020年7月には、世界各国の大手バイオ医薬品企業など約20社で「AMRアクションファンド」を発足。2030年までに新たな種類の抗生物質を2~4剤製品化することを目標に、小規模なバイオテクノロジー企業に約10億円を投資する。
薬剤耐性(AMR)への有効な薬剤が無ければ、2050年までに世界で毎年1,000万人が犠牲になると言われ、新型コロナに匹敵する危機に直面する。AMRの脅威に対し、全世界の政府機関、医療関連企業が対策を取る必要がある。
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