抗がん剤、新型コロナの重症化防ぐ
2022-12-08

セルスペクト(株)科学調査班編集

2022年12月9日更新

 

       

 抗がん剤「HA15」が、新型コロナウイルスの重症化を抑えるとわかった。HA15は、がんの進行を促す細胞内のタンパク質「GRP78(Glucose-Regulated Protein 78 kDa)」の働きを抑制する薬。新型コロナウイルスの増殖を抑える効果があると、11月にカリフォルニア大学が学術雑誌(Nature Communications)で公表した。

 

 

 GRP78とは、体内の細胞の表面と、細胞内部に常在するタンパク質。がんや糖尿病、高血圧などの疾患のほか、ウイルスの存在によっても増加する。

 

 

 新型コロナウイルスは、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質と、肺や心臓などに多く存在する受容体タンパク質「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」が結合して、細胞内に侵入する。

この時、スパイクタンパク質は、ACE2との結合を容易にするため、細胞表面のGRP78と結合して、ウイルスを細胞表面にとどめる。

 

 つまり、細胞表面のGRP78が増えている疾患持ちの人は、ウイルスとACE2との結合が多くなり、細胞内のウイルス量が増え、重症化に至りやすい。

 

 

こうした細胞表面のGRP78の増加による重症化のメカニズムは解明されていたが、細胞内のGRP78が増えることによる影響は、明らかにされていなかった。

 

細胞内のGRP78は、体内のタンパク質を合成する機能があり、ウイルスのタンパク質も生成してしまう面がある。細胞内のGRP78が増えると、新型コロナウイルスの生成が促進され、重症化を促すと考えられていた。

 

 

 そこで、GRP78の研究に長けたカリフォルニア大がこの仮説を実証。細胞内のGRP78が増えると、タンパク質を合成する機能が高まり、新型コロナウイルスが増加して、重症化に至ることを明らかにした。

 

 さらにこの結果から、細胞内のGRP78の働きを抑える抗がん剤が、新型コロナの重症化予防に有効なことを発見。

抗がん剤「HA15」をマウスに投与したところ、(投与しなかったマウスに比べて)3日間で肺のウイルス量が10分の1まで減ったという。

 

 

 新型コロナは流行当初から、基礎疾患を持つ人が重症化しやすいと言われていた。そのメカニズムが同大によって確立されたことになる。

既存の抗がん剤が、感染予防に活用できることがわかったのも大きな成果だ。

 

治療法の選択肢が増えれば増えるほど、今まで助からなかった患者を救えるようになる。研究の進展が楽しみだ。

 

 

 

引用文献:

1. Woo-Jin Shin, Dat P. Ha, Keigo Machida & Amy S. Lee, Nov 14, 2022 “The stress-inducible ER chaperone GRP78/BiP is upregulated during SARS-CoV-2 infection and acts as a pro-viral protein” Nature Communications

2.Helen Floersh, Nov 17, 2022 “2 diseases, one drug: How a drug for deadly cancer could treat COVID-19” Fierce Biotech.

 

 

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