セルスペクト(株)科学調査班編集
2022年12月9日更新
抗がん剤「HA15」が、新型コロナウイルスの重症化を抑えるとわかった。HA15は、がんの進行を促す細胞内のタンパク質「GRP78(Glucose-Regulated Protein 78 kDa)」の働きを抑制する薬。新型コロナウイルスの増殖を抑える効果があると、11月にカリフォルニア大学が学術雑誌(Nature Communications)で公表した。
GRP78とは、体内の細胞の表面と、細胞内部に常在するタンパク質。がんや糖尿病、高血圧などの疾患のほか、ウイルスの存在によっても増加する。
新型コロナウイルスは、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質と、肺や心臓などに多く存在する受容体タンパク質「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」が結合して、細胞内に侵入する。
この時、スパイクタンパク質は、ACE2との結合を容易にするため、細胞表面のGRP78と結合して、ウイルスを細胞表面にとどめる。
つまり、細胞表面のGRP78が増えている疾患持ちの人は、ウイルスとACE2との結合が多くなり、細胞内のウイルス量が増え、重症化に至りやすい。
こうした細胞表面のGRP78の増加による重症化のメカニズムは解明されていたが、細胞内のGRP78が増えることによる影響は、明らかにされていなかった。
細胞内のGRP78は、体内のタンパク質を合成する機能があり、ウイルスのタンパク質も生成してしまう面がある。細胞内のGRP78が増えると、新型コロナウイルスの生成が促進され、重症化を促すと考えられていた。
そこで、GRP78の研究に長けたカリフォルニア大がこの仮説を実証。細胞内のGRP78が増えると、タンパク質を合成する機能が高まり、新型コロナウイルスが増加して、重症化に至ることを明らかにした。
さらにこの結果から、細胞内のGRP78の働きを抑える抗がん剤が、新型コロナの重症化予防に有効なことを発見。
抗がん剤「HA15」をマウスに投与したところ、(投与しなかったマウスに比べて)3日間で肺のウイルス量が10分の1まで減ったという。
新型コロナは流行当初から、基礎疾患を持つ人が重症化しやすいと言われていた。そのメカニズムが同大によって確立されたことになる。
既存の抗がん剤が、感染予防に活用できることがわかったのも大きな成果だ。
治療法の選択肢が増えれば増えるほど、今まで助からなかった患者を救えるようになる。研究の進展が楽しみだ。
引用文献:
1. Woo-Jin Shin, Dat P. Ha, Keigo Machida & Amy S. Lee, Nov 14, 2022 “The stress-inducible ER chaperone GRP78/BiP is upregulated during SARS-CoV-2 infection and acts as a pro-viral protein” Nature Communications
2.Helen Floersh, Nov 17, 2022 “2 diseases, one drug: How a drug for deadly cancer could treat COVID-19” Fierce Biotech.
<免責事項>
本情報は、当社の販売商品やサービスとは一切関係ありません。また、記載内容はあくまでも編集者の主観に基づいたものであり、その正確さを保証するものではありません。より、詳しくは、上記の引用文献にある公的報告書、査読付き論文を参照してください。本記載内容を転載することは自由ですが、これにより発生したいかなる事象についても弊社では一切責任を負いません。