セルスペクト(株)科学調査班編集
2022年12月23日更新
はしかの予防接種を終えていない子どもが、2021年末時点で世界に約4千万人いると、世界保健機関(WHO)と米疾病対策センター(CDC)が11月に発表した。
新型コロナウイルス禍で、乳幼児向け集団接種が中止されたことなどから、接種が滞ったとみられる。
WHOのテドロス事務局長は「新型コロナのワクチンは驚異的な速さで開発と接種が進んだ。しかしその裏で、子どもたちが予防可能な病気の危険にさらされている」と述べ、はしかへの感染予防が不十分な子どもの重症化や死亡の増加を懸念した。
はしかとは、麻疹(ましん)ウイルスの感染によっておこる伝染病。発熱や咳、鼻水といった風邪に似た症状と、発疹が出る。重症化すると、肺炎や脳炎といった重い合併症を発症することもある。
はしかの最大の特徴は、伝染力が非常に強いこと。インフルエンザの10倍の感染力と言われ、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症する。
ワクチン接種が普及する1963年以前は、2~3年に一度大流行し、毎年(推定)260万人が死亡していたが、現在はワクチンを2回打てば、ほぼ完全に予防できる。
しかし、ワクチン普及後も国によっては未接種者が多い地域があり、新型コロナの流行前の2019年におけるはしかの死亡者数は20万人。死亡者の大半は、合併症にかかりやすい5歳未満の子どもだった。
新型コロナウイルス感染拡大後の2021年は、はしかによる死亡者数が12万8千人に減少。しかし、22か国で大規模な感染拡大があったことから、新型コロナの影響で検査や報告が出来なかったためとみられる。
同年のはしかのワクチン接種率は、1回目が81%、2回目が71%と、2008年以来の最低水準となった。
これは、新型コロナウイルスの世界的流行による医療システムの崩壊や、定期的な集団接種の中止で接種が滞った影響とみられる。
前述したとおり、はしかは感染力が非常に強いため、世界の一部地域でアウトブレイク(大規模発生)したら、国境を越えてあっという間に世界中に感染が広がる。
アウトブレイクにならないよう「集団免疫※」を獲得するには、1回目と2回目の接種率を95%以上にする必要がある。
※集団免疫
感染者が出ても、感染症が流行しないぐらい、一定割合以上の人口が免疫を持つこと。間接的に免疫を持たない人も感染から守られる。
集団免疫の獲得のためには、各国が協力して未接種者の多い地域の特定とその原因を突き止め、ワクチン接種を強く推進する必要がある。
日本国内のはしかの患者数は、2020年のコロナの大流行以来、年間10人を下回っているものの、最近は入国や渡航が再開し、人の往来が増えつつあるため、はしかに感染する危険性は高まっている。
新型コロナの感染予防対策で世界中に浸透したマスク、手洗い、ソーシャルディスタンスは、はしかの蔓延予防に役立つ。
子どもたちを守るため、こうした個々の感染対策のほか、感染した場合の早期発見、早期治療を行える体制の構築が求められている。
引用文献:
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