セルスペクト(株)科学調査班編集
2023年2月10日更新
鼻や口から侵入した新型コロナウイルスが、どのような経路で細胞内で増殖(=感染)するかが、スタンフォード大学の研究で明らかになった。
この感染メカニズムの解明から、鼻腔や気管支の線毛の運動や、微絨毛(びじゅうもう)の増殖を抑制する点鼻薬を使えば、体内でのウイルスの拡散を防ぎ、軽症にとどめられる可能性が高いことがわかった。
12月1日発売の学術雑誌「Cell」で公表された同大の論文によると、鼻や口から侵入した新型コロナウイルスは、まず副鼻腔や気管支などの粘膜の表面にある細い毛の集まり「線毛(cilia)」に付着する。
ウイルスは、毛の先端からゆっくりと毛の根本に移動し、細胞に侵入、増殖して(体内に広がって)いく。
研究によると、侵入したウイルスが細胞内で増殖(感染)するまでの時間は48時間。体内に侵入したウイルスは感染まで約2日要するということだ。
これほど時間がかかる理由は、鼻や気管の粘膜上にある粘液層(mucus layer)と呼ばれる粘液のバリアにある。
このドロドロした粘液によってウイルスの動きが鈍ることと、粘液内にはウイルスを攻撃するIgA抗体が多く分泌されていることから、ウイルスは細胞内に到達するのに時間を要するのだ。
人工的に培養して立体的に作りあげたミニ臓器(オルガノイド)を用いた実験で、粘液のバリアのないオルガノイドは、ウイルスの侵入が速く、約1日で感染した。この実験で、侵入から感染まで潜伏期間があるのは、この粘液のバリアによるものと証明された。
さらに、鼻腔や気管支の線毛の運動が体内のウイルスの増殖を促進させることもわかった。
通常、線毛が動くことで、粘液層がベルトコンベアのように動き、ウイルスなどの異物を体外に排出する。しかし、この運動によってウイルスを体内に広げてしまう場合もあるのだ。
線毛の運動が低下する疾患「原発性線毛運動不全症( primary ciliary dyskinesia、通称PCD) 」の患者のヒト鼻上皮細胞を使ったオルガノイドの実験で、ウイルスの侵入から増殖までをたどったところ、侵入から48時間後にウイルスに感染している細胞は、通常の感染時と比べて大幅に少なかった。
線毛の運動量が少ないと、粘液層の動きが停滞するため、ウイルスが体内に広がりにくかったのである。
さらに、鼻腔や気管の細胞膜表面にある突起「微絨毛」も、ウイルスの体内での増殖を促すことがわかった。
ウイルスが侵入すると、線毛の半分以下の長さしかない微絨毛が急成長し、粘液層の外に飛び出す。ウイルスは、この微絨毛に付着することで、粘液のバリアの影響を受けずに、細胞に侵入することができる。
細胞内に侵入後、増殖したウイルスは、微絨毛の先端から飛び出て、粘膜層の流れに乗って、広範囲の細胞に広がる。
この結果から、線毛の運動や微絨毛の増殖を防ぐ薬(点鼻薬)を使えば、体内へのウイルスの拡散を防ぎ、症状を最小限にとどめることができる(鼻や喉の軽い症状で済む)とわかる。
このウイルスの侵入から感染までの仕組みは、新型コロナだけでなく、インフルエンザなどの呼吸器系ウイルスも同様の可能性が高い。
つまり、家族や親しい人が呼吸器系ウイルスに感染し、感染を免れない状況時にこの点鼻薬を使えば、軽い症状にとどまり、早く治すことができる可能性がある。重症化予防の薬として開発されることを期待したい。
≪参考画像≫
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Blausen_0766_RespiratoryEpithelium.png
引用「“ブラウゼン・メディカル2014のメディカルギャラリー“. WikiJournal of Medicine 1 (2). DOI:10.15347/wjm/2014.010. issn 2002-4436.」
引用文献:
<免責事項>
本情報は、当社の販売商品やサービスとは一切関係ありません。また、記載内容はあくまでも編集者の主観に基づいたものであり、その正確さを保証するものではありません。より、詳しくは、上記の引用文献にある公的報告書、査読付き論文を参照してください。本記載内容を転載することは自由ですが、これにより発生したいかなる事象についても弊社では一切責任を負いません。