新型コロナウイルスの大流行によって市場に広がった迅速検査キットの精度を、PCR検査並みに高めてくれるろ過装置「ビートルズ(BEETLES2)」が、韓国の光云大学(クァンウン大学)によって開発された。鼻腔ぬぐい液や唾液などの検体から、必要なウイルスや抗体だけを濃縮して取り出すろ過装置で、検査の的中率が2倍に高まる。
感染初期や無症状の状態でも感染を調べられ、インフルエンザの検査にも使えるため、感染症の蔓延防止に一役買うツールと期待されている。
新型コロナ感染の判別には、PCR検査が主に使われてきた。しかし、検体内のウイルスを専用装置で増殖させて調べる方法のため、結果が出るまで4~6時間かかり、地域によっては検査が追い付かないことがあった。また、費用も高額のため、新型コロナが感染症法上の5類に移行した現在は、検査の無料化が撤廃されている。
検査の有料化に伴う感染拡大が懸念される中、検体を検査スティックの上に滴下するだけで病原体を検出でき、10~15分程度で感染を判定できる「迅速検査」のニーズが高まっている。しかし、PCR検査より正確性が劣るのが課題だった。
そこで開発されたのが、ろ過装置「ビートルズ(BEETLES2)」。陽極酸化アルミニウム(AAO)膜と赤血球膜で作られたシートで、検体に含まれる余分な成分を除去し、ウイルス自体と、感染によって発生する抗体(免疫グロブリンG=IGg)、死んだ新型コロナウイルスから流れ出たNタンパク質(ヌクレオカプシドタンパク質)だけを濃縮して取りだす。
AAO膜は、20ナノメートル(nm)の穴が空いたハチの巣状で、水分や抗体、タンパク質を除去し、80~220nmあるウイルス粒子だけをひっかけてとどめる。
抗体やNタンパク質は20nm以下の大きさのため、AAO膜だけでは流出してしまう。そこで、プラスに帯電する成分を吸着する赤血球膜で、プラス帯電の抗体とNタンパク質をとどめる。
ビートルズで濃縮した検体を使ったところ、迅速検査の感度が20倍高まり、感染初期でもウイルスや抗体を検出することができた。
感染初期の42検体(Ct値※22~26が7検体、26~30が15検体、30以上が20検体)を測定したところ、ビートルズを使わなかった場合は陽性的中率が14・29%、使用した場合は88・1%だった。
※PCR検査で行われる遺伝子の増幅回数。薬液と温度調整でウイルスの遺伝子を増幅させる作業を何度繰り返したかを表す。Ct値が高いとウイルス量は少なく、感染力が低く、Ct値が低いとウイルス量が多く、感染力も高い。
検査の感度が高まると、対象以外のウイルスも感知してしまい偽陽性が出る可能性が高まるが、ビートルズを通した20回の検査では、偽陽性が1度も出なかった。
抽出にかかる時間はたった3分。開発中のため価格は未定だが、1,000円~2,000円程度の迅速検査キットとの併用を前提とすれば、高額にはならないと予想する。
PCRと同じ精度で、市販の検査キットとの組み合わせができる点から、世界保健機構(WHO)が掲げるPOCT(簡易迅速検査)のあるべき姿(使いやすい、迅速、低コスト、高精度、一般消費者向け等)に合致する。
気軽に購入しやすい迅速検査キットの精度の向上は、感染拡大を抑止し、医療ひっ迫や経済活動の停滞を防ぐ。ビートルズはインフルエンザウイルスも検出できるため、迅速検査の活用が一層増えそうだ。
(図)ろ過装置「ビートルズ(BEETLES2)」引用文献1から引用
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