セルスペクト(株)科学調査班編集
2023年9月15日更新
新型コロナウイルス感染拡大によって、自分で簡単に感染しているかを調べられる迅速検査キット※図1の活用が大きく広がった。手のひらサイズの検査スティックの上に、唾液などの検体を滴下し、10~15分程度待てば結果が出るというスピードと手軽さが利点で、安価なため、新型コロナ以外のインフルエンザ向けなどの製品の利用も広がっている。
迅速検査キットの唯一の難点は、感染初期の正確性。鼻腔ぬぐい液などの検体のウイルスを増殖させてから調べるPCR検査と違って、迅速検査キットは検体をそのまま使うため、ウイルスが少ない感染初期はウイルスを見つけづらい。
発見しにくい原因は、ウイルスに吸着する「抗体」を用いた判別方法にもある。
抗体とは、体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体に吸着し、攻撃するタンパク質。迅速検査の検査スティックには、人工的に製造した抗体が内蔵されており、検体を入れた時に、ウイルスに吸着した抗体があるかどうかで感染を判別する。
抗体は目視できないため、赤色の金ナノ粒子で色付けして認識できるようにしているが、金ナノ粒子は、直径が数十ナノメートルと非常に小さく、ある程度数が集まらないと肉眼で見えない。そのため、ウイルスの量が少ない感染初期は見つけるのが難しい。
そこで米国ヒューストン大学が6月、お祭りでよく売られているペンライト「ケミカルライト」の原理を使い、ウイルスに吸着した抗体を光らせて検出する方法「Glow(発光)-LFA」を発表した。
ケミカルライト※図2とは、スティックを軽く折り曲げると、内部のガラス筒が割れ、仕切られていた2種類の化合物が混ざり、それを燃料に「蛍光粒子」が発光する。
同大はこの蛍光粒子を、金ナノ粒子の代わりに使用。抗体に蛍光粒子をくっつけて検査スティックに内蔵した。鼻腔ぬぐい液などの検体を滴下した後、ケミカルライトと同様の化合物を押し出し、ウイルスと結合した抗体(=蛍光粒子)を光らせる。※図3
肉眼では見えにくいため、混合液を流した後のスティックを、光を遮った暗所に置き、スマートフォンで撮影した写真から、蛍光粒子を見つける。
結果、金ナノ粒子よりもウイルスを見つける感度が10倍になり、わずかなウイルスでも発見できるようになった。
これまでは、感染の症状が出て早めに受診しても、感染初期だと判定ができず、治療を受けられないケースが少なくなかった。感染症で悪化しやすいのは、抵抗力が弱い子どもや高齢者。この機器があれば、早期治療が可能になり、重症化で苦しむ子どもたちを減らせる。製品化に期待したい。
医療機器・ヘルスケア産業では、この難点を改善する製品の開発が活発化している。
図1(日本経済新聞2020年12月9日掲載「セルスペクト、コロナとインフルの抗原検査キット開発」より引用)
図2(http://monta.moe.in/wp/2014/01-12/14-58_1412より引用)
図3(引用文献から引用)
引用文献:
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