セルスペクト(株)科学調査班編集
2021年3月26日更新
(注意:より専門的な内容については“(→ )内に記載しました。こちらは、読み飛ばしてください。)
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)社の新型コロナワクチン (Ad 26.COV 2.SまたはJNJ-78436735とも呼ばれる) は、2月24日に米国FDAが緊急使用許可を承認し、3月11日には欧州委員会から条件付き販売認可を受け、ファイザー社とモデルナ社のワクチンに続いて3番目に米国市場に参入しました。
J&Jワクチンは、アデノウイルスに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝子を添加することにより免疫応答させます。(→一本鎖RNAを使用するファイザー社やモデルナワクチン社とは異なり、J&Jワクチンは二本鎖DNAを使用しています。)
米国、中南米、南アフリカで約44,000人が参加した第3相臨床試験では、死亡を予防する効果は100%、中等度から重症までの予防効果は66%、重症の予防効果は85%でした。南アフリカの変異株に対しても予防効果があったことは特筆できます。さらに、その保管方法はマイナス20℃で2年、2~8℃でも少なくとも3カ月間安定で、また1回の接種で済むため、物流面でも大きな利点があります。
ワクチンにとって「有効性」とは実際には何を意味するのか?、と多くの人が疑問に思っています。有効性はワクチンの臨床試験では重要な概念ですが、難しい概念でもあります。ワクチンの有効性が例えば95%の場合、そのワクチンの接種を受けた人の5%がコロナに感染することを意味するわけではありません。統計学的に有効性とは、ワクチンの接種で「新型コロナウイルスに感染するリスクを減らす」ことを示す指標です。例えば、J&Jはワクチンを接種したにもかかわらずコロナに感染した人数を調査し、プラセボ (ワクチンではない偽薬)を接種後新型コロナウイルスに感染した人数と比較しました。感染リスクの差は、0%はワクチン接種を受けた人がプラセボを投与された人と同程度のリスクにあることを意味し、100%であればワクチン接種によってリスクが完全に排除されたことを意味する割合として計算します。
J&Jワクチンを例にとると、米国でプラセボ接種群の5,000人中約63人が発病したのに対し、ワクチン接種群では18人が発病したため、有効性は72%となります。つまり、リスクの減少は (63-18)÷63=71.4% と算出されます。
ファイザー社ワクチンの場合、有効率は95%なので、同じような状態であれば、ワクチン接種群で3名しか発病せず、リスク減少は (63-3) ÷63=95% と算出できます。
有効性は、試験実施場所など、試験の条件により異なります。J&Jは米国、中南米、南アフリカの3カ所で試験を行いました。有効率は、米国で72%、南アフリカで64%でした。
(→全体的な有効性が米国のみでみた場合よりも低かった理由の1つは、南アフリカでの試験が、新規変異株が同国を席巻した後に行われたことです。この変異株はB.1.351と呼ばれ、ワクチン接種によって産生される抗体の一部を回避する変異を有します。しかし、この変異株はワクチンを全く役に立たないものにはしませんでした。)
いくつかの理由から、これらのワクチンを正確に比較することは非常に困難です。
(→あるワクチンは他のワクチンよりも有効性が高い可能性がありますが、その統計的信頼区間は重なる場合があります。これにより事実上結果を区別できなくなります。)
さらに複雑なことは、パンデミックのさまざまな段階にある、さまざまなグループの人々を対象に、ワクチンの試験が行われたことです。加えて、それらの効果を異なる方法で測定したことです。例えば、J&Jワクチンの有効性は単回投与28日後に測定され、モデルナの有効性は2回目の投与14日後に測定されました。
臨床試験は、あらゆるワクチンの研究の最初のステップにすぎません。研究者たちは、ワクチンの使用が拡大することで性能を追うことができます。研究者たちは現在、効果ではなく、有効性を追っています。ワクチンが病気のリスクをどれだけ減らすかを、数千人ではなく、数百万人単位といった大規模測定を行っています。今後数ヵ月のうちに、研究者らはこのデータに目を光らせ、ワクチンの免疫を作る効果が低下しないか、新たな変異型の発生により有効率が低下しないかどうかを調べる予定です。
引用文献:
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