新型コロナウイルス感染症と大気汚染との関係
2021-04-16

セルスペクト(株)科学調査班編集
2021年4月16日更新

 

(注意:より専門的な内容については“(→ )内に記載しました。こちらは、読み飛ばしてください。)

          

・PM2.5とは?
PM2.5は、大気中に浮遊している直径2.5μm(1μm(マイクロメートル)=1mmの1000分の1)以下の超微小粒子です。超微小粒子は、工場、自動車、船舶、航空機などから排出される煤、粉塵、硫黄酸化物 (SOx) などであり、大気汚染の原因となります。大気中のPM 2.5濃度は季節により変動し、例年、3月から5月にかけて濃度が増加する傾向にあります。また、地域によっても差があります。
お住まいの地域におけるPM2.5の濃度は、環境省大気汚染物質広域監視システムAEROSのサイトで確認することができます。
http://soramame.taiki.go.jp/

 

・大気汚染と新型コロナウイルス感染症の重症化
昨今、PM 2.5による大気汚染が新型コロナウイルス感染症をさらに悪化させるかもしれない、と懸念されています。最近の研究によると、大気汚染と新型コロナウイルス感染症重症化との関連性が指摘されており、すべての人にとって健全な空気を確保することが重要である事がわかってきています。

2020年9月に発表された米国ニューヨーク州立大学ESF校での研究では、有害大気汚染物質への曝露機会の増加により、新型コロナウイルス感染症による死亡例が9%増加した、と報告されました。この増加は貧富の差やその他の健康上の理由ではなく、有害大気汚染物質が原因であると報告されています。これは、大気汚染指数が高いほど、呼吸器系のストレスにより新型コロナウイルス感染症が重症化する、と考えられています。

2020年12月に行われた別の調査では、世界中の疫学データ、人工衛星からのデータ、その他のモニタリング情報を組み合わせて分析し、研究者らは新型コロナウイルス感染症による全世界の死亡例の内、平均して15%が大気汚染への慢性的曝露に関連している可能性があると推定しました。(本研究では、結果を地域別および国別に分類しています。大気汚染が関連する新型コロナウイルス感染症の死亡例は、例えば中国で27%、米国で18%、メキシコで15%、英国で14%、イスラエルで6%、そしてニュージーランドではわずか1%でした。研究者たちはまた、化石燃料に関連した大気汚染と、その他の人為的な大気汚染源とを区分しました。米国では、新型コロナウイルス感染症の死亡原因の15%が化石燃料による大気汚染によるものでした。)

さらに、ハーバード大学公衆衛生大学院の研究者らは、長期に曝露する超微小粒子汚染の平均量が1μg/m3というわずかな増加だけでも、新型コロナウイルス感染症死亡率が11%増加することに関連していることを発見しました。調査対象となったのは 3,089 の郡で、米国人口の 98%を占めています。

最近、京都大学大学院環境衛生学の高野博久教授が率いる研究グループは、PM2.5により新型コロナウイルスが細胞へ感染しやすくなることを発見しました。この研究成果は国際学術誌「Environmental Research」に掲載されました。(高野教授らによると、新型コロナウイルスが体内に侵入する際に、感染した標的(宿主:ヒトまたは動物)の細胞内にあるACE 2とTMPRSS 2という2つの分子が重要となります。この2つの分子が多いほど、感染症を引き起こす可能性が高くなります。研究グループは、大気中からサイクロン法で採取したPM2.5を吸入したマウスの肺のその後の変化を調べました。結果として、ACE 2とTMPRSS 2は、特に肺拡張を維持するために非常に重要な細胞であるII型肺胞上皮細胞で増加します。このため、超微小粒子により新型コロナウイルスの侵入を容易にしていることが推察されます。)
このように、新型コロナウイルス感染症対策としても、清浄な空気を呼吸することが、非常に重要である事が明らかになりつつあります

 

引用文献:
1.Tomoya Sagawa et al. “Exposure to particulate matter upregulates ACE2 and TMPRSS2 expression in the murine lung” Environmental Research Volume 195, April 2021, 110722.
2.Editorial Staff, January 4, 2021. “Understanding the link between COVID-19 Mortality and Air Pollution” アメリカ肺協会
3. 環境省大気汚染物質広域監視システムAEROS (http://soramame.taiki.go.jp/) 

 

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