「細胞治療」 新型コロナウイルス感染症の治療へ
2021-09-10

セルスペクト(株)科学調査班編集
2021年9月10日更新

 

 8月11日刊行された科学雑誌「Science Advances」で、米国生物学者ジョージ・チャーチ氏をはじめとする多くの科学者が、新型コロナウイルス感染症の重症化、後遺症の治療に有効とされる「細胞治療」の可能性を示した。
 
 細胞治療とは、損傷した細胞を修復させる機能を持つ細胞を、健康体から採取して培養し、患者に投与すること。臨床試験は初期段階ではあるが、続々と成果が報告されている。
 そもそも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は出現当初、ウイルス性肺炎のみを引き起こす病原体だと思われていた。しかし研究が進むにつれ、ウイルスは全身に広がり、免疫システムや腎臓、心臓、神経系の機能を阻害することが分かった。

 これは、身体の細胞の表面にあるタンパク質「アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)」が関係している。新型コロナウイルスは、このACE2と結合することで細胞内に侵入するが、ACE2は鼻粘膜を始め、肺、心臓、腎臓、膀胱、腸にも存在する。なので、それらの臓器でもウイルスが増殖し、心血管、神経、免疫、消化器系などの機能が損傷する。

 そのため、大半が軽症で済むものの、感染者の15%強は重篤な症状で長期入院に至り、重症患者の死亡率は61・5%に達する。回復しても、ウイルスによる臓器の損傷が原因で、長期的な後遺症が残る場合もある。
 現在主流となっている治療法は、身体に表れている症状の抑制に留まるため、症状を根本から治し、後遺症の残らない治療法が求められている。そこで注目されているのが、組織を再生・構築する「細胞治療」だ。

 細胞治療に使用されるのは、様々な組織に変化する「幹細胞」である。研究から、骨や軟骨、血管、心筋細胞に変化する中胚葉由来の「間葉系幹細胞 (MSC)」や、肺胞を軟化させる(膨らませる)物質を分泌する「Ⅱ型肺胞上皮細胞」は、コロナ感染の後遺症で多い、「肺線維症※」の治療に有効と、動物実験から示された。

※酸素や二酸化炭素の通り道である肺胞の壁(間質)が厚く、硬くなり(繊維化)、肺が十分にふくらまず、酸素が不足になる症状。

 

 ナチュラルキラー(NK)細胞、調節性T細胞(Treg)、ウイルス特異的T細胞、遺伝子組換えCAR-NK細胞、CAR‐T細胞は、全身の炎症を引き起こす「サイトカインストーム」の抑制に効果があり、MSCもこの抑制に有効と見られる。

 心血管系、腎系、心筋系の障害に対しては、IPS細胞から作られた心筋細胞や腎細胞、MSCを移植する治療法の臨床試験がスタートしている。

 これらの細胞治療の有効性が確立し、実用化・普及に至れば、重症化や後遺症に苦しむ患者を救うことができる。臨床試験の動向に注視したい。

 

引用文献:

  1. Zaki et al., August 11 2021, “Cell therapy strategies for COVID-19: Current approaches and potential applications” Science Advances Vol. 7, no. 33, eabg5995. DOI: 10.1126/sciadv.abg5995

 

 

<免責事項>
本情報は、当社の販売商品やサービスとは一切関係ありません。また、記載内容はあくまでも編集者の主観に基づいたものであり、その正確さを保証するものではありません。より、詳しくは、上記の引用文献にある公的報告書、査読付き論文を参照してください。本記載内容を転載することは自由ですが、これにより発生したいかなる事象についても弊社では一切責任を負いません。

いいね!済み いいね!
5 人が「いいね!」しました。
アクセスランキング