セルスペクト(株)科学調査班編集
2021年10月22日更新
ー需要伸びる検査市場。成功を収めた検査キット会社ー
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が、ワクチンの普及により収束しつつあるものの、コロナ検査関連市場の需要は続いている。
米国政府は10月6日、家庭用検査キット生産に数十億ドルを投じ、誰もが手軽に感染の有無を調べられる社会体制を作る考えを示した。
コロナ検査関連市場が魅力的な市場と見られる中、9月に検査キット開発の「キュー・ヘルス(Cue Health、以下キュー社)」が、米ナスダック市場に新規上場(IPO)した。初値は、公開価格(16ドル)を25%上回る20ドルで、企業評価額は23億ドル(約2600億円)近くに達した。
―キュー社成功の背景―
同社は2010年設立後、家庭用インフルエンザ検査キットを開発していた。19年に新型コロナが発生したことから、いち早く新型コロナを対象とした家庭用検査キットの開発に着手。
開発した製品は、2020年6月にFDA(アメリカ食品医薬品局)の許可を得て、臨床現場即時検査(POCT)として医療現場で使用されるようになり、21年3月には自宅での使用も可能になった。
キュー社の製品は、他社とは異なる3つの強みがある。
「米国初の核酸検査ができる家庭用検査キット」
市場に流通している家庭用検査キットには、ウイルス特有のタンパク質の検出から、感染の有無を判別する「抗原検査」が用いられている。抗原検査は、一定のウイルス量が必要であるため、ウイルスが少量の場合は判定が難しいと言われている。
それに対し、キュー社のキットは、PCR検査と同じ「核酸検査」の一種である「NAAT法」を採用している。核酸検査とは、ウイルスの遺伝子を増幅させて調べる手法で、少量のウイルスにも対応するため、PCR検査と同程度の精度になる。
米国医療機関の調べによると、キュー社製キットと、医療機関でのPCR検査の結果を比較したところ、92%の高確率でマッチしたという。
「病院に行かずに、ドラッグストアで購入できる」
PCR検査に代表される核酸検査は今まで、医療機関にある専用機器と検査技術が必要だった。しかし、キュー社製の家庭用検査キットは、特別な技術がいらず、誰でも使える仕様で、ドラッグストアで手軽に買える。
「検査時間は20分、スマートフォンで確認可能」
医療機関で行う核酸検査にかかる時間は、前処理含め3時間ほどだった。それに対し、NAAT法を用いたキュー社の検査機器は、結果の判定まで20分で、スマートフォンアプリですぐに結果を見られる。
―キュー社の今後。変異株感染エリア予測などー
10月からは、IT大手「グーグル(Google)」と組み、クラウド上に上がった検査結果から、変異株感染者の位置情報を抽出し、どこにどの種類の変異株が感染しているかを把握する。その結果を、遺伝子配列やAI(人工知能)で解析し、次の感染エリアを予測できるようにする。
さらに、キュー社は家庭用検査キットの対象を広げる。インフルエルザ、風邪ウイルスの一つ「RSウイルス」、排卵日の検査の他、心臓病や慢性疾患の可能性をチェックできる製品を、22年に発売する予定。鼻腔拭いだけでなく、血液や尿からも検査できるようにする。
精度の高い「核酸検査」を使った家庭用検査キット。残念ながら、日本ではまだ流通していない。キュー社の活躍が、日本の家庭用検査市場に好影響をもたらすことを期待したい。
引用文献:
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