セルスペクト(株)科学調査班編集
2021年11月12日更新
米国の製薬大手メルクが開発した新型コロナウイルス経口治療薬「モルヌピラビル」が4日、英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)に承認された。新型コロナ向け飲み薬の承認は、世界初。米国、欧州連合(EU)の当局も承認審査に入っており、日本でも近く承認される見通しだ。
―モルヌピラビルとはー
これまで新型コロナの治療は、注射か点滴で抗ウイルス薬を投与する方法しかなく、病院でしか受けられなかった。また病院で使用されている抗ウイルス薬は、重症化するほど効果が薄くなるのが課題だった。
メルクの飲み薬は、もともとインフルエンザ用に開発された治療薬で、発症初期の患者の重症化を防ぐ効果がある。
発症から5日間、1日2回服用するが、処方箋があれば、薬局やドラッグストアで買えるため、何度も病院に行かずに済み、早期治療が容易になる。
―有効性は―
メルクの飲み薬は、ウイルスの複製に必要な酵素「RNAポリメラーゼ」の働きを阻害する低分子化合物でできており、ウイルスの遺伝子の増殖を抑制し、病気の悪化を防ぐ。
新型コロナの治療薬として特例承認された抗ウイルス薬「レムデシビル」と同様の作用だが、モルヌピラビルの方がより強力と言われる。ガンマやデルタ、ミュー等の変異株にも有効だ。
軽症や中等症の患者を対象にした国際共同臨床試験(治験)では、入院や死亡のリスクを50%も減らした。投与患者の死亡はゼロだった。
治療薬による有害事象(副作用や症状の悪化)は、モルヌピラビル(メルクの飲み薬)群12%、プラセボ(偽薬)群11%と、ほぼ同じだった。
治療を中止するほどの有害事象を起こしたのは、モルヌピラビル群1.3%、プラセボ群3.4%と、メルクの飲み薬は確率が低かった。
―副作用はー
遺伝子にアプローチする薬のため、一部の研究者は、同剤が遺伝的障害(DNAに異常)を起こす危険性があると指摘する。そのため治験では、妊娠を望む男女、妊娠中もしくは授乳中の女性は、対象から外された。
遺伝子に影響する可能性について、メルクは「用法用量を守れば安全」と述べている。
―ゲームチェンジャーになるか―
新型コロナウイルスとの「共存」には、風邪の病原体と同程度の対策が必要だ。感染拡大と重症化を防ぐ「ワクチン」と、早期治療を促す「経口治療薬」が、パンデミック(世界的大流行)収束のゲームチェンジャーだと言われている。
特に、ワクチンの管理設備がなく、医療スタッフも少ない発展途上国では、経口治療薬が鍵を握る。
―日本の製薬会社に期待ー
国内の製薬大手、塩野義製薬(大阪府)が開発中の飲み薬「S―217622」は、ウイルスの酵素「3CLプロテアーゼ」の働きを阻害し、ウイルスの増殖を防ぐ。症状がない、もしくは軽症の患者2千人を対象に最終段階の治験を進めており、年度内の供給開始を目指す。
遺伝子への影響はないと考えられるため、同剤の有効性に期待が高まる。
ー油断大敵。感染予防の継続をー
治療薬が増えているからといって、油断は禁物だ。治療薬やワクチンは、感染予防効果や軽症の確率を高めるもので、感染予防や重症化を100%保障する訳ではない。
感染で引き起こるリスクを考えると、感染しないのが一番。日頃の予防対策は、今後も継続させましょう。
引用文献:
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