セルスペクト(株)科学調査班編集
2022年2月18日更新
オミクロン株が猛威を振るう中、イギリスは感染者数の減少を理由に、法的な行動規制緩和に踏み切った。学校や公共施設のマスク着用、ワクチン証明書の義務化を撤廃し、「在宅勤務の推奨」、「高齢者福祉施設への入場規制」、「ワクチン接種済み旅客の検査」もなくす方針。感染後の隔離措置を定めた3月期限の法律も「隔離が義務づけられない風邪と同じ扱い」として、延長しない意向だ。
段階的に規制を緩和している国は増えているものの、イギリスのように全面的な撤廃をしている国は少ない。なぜ大きく舵を切れたのか、「新型コロナの風邪化が進んでいる」のは本当か。イギリスの重症化数、死亡率を検証してみる。
まず表1は、英国保健安全保障庁(UKHSA:UK Health Security Agency)が公表した『英国における変異株の症例と死亡率』。
感染者数を見ると、発生初期の新型コロナに比べ、デルタ株とオミクロン株の感染力は3~4倍だとわかる。しかし、死亡者数は非常に少なく、オミクロン株の死亡率は0・18%程度。インフルエンザの死亡率に近い。
表1 データソース:NHS EnglandおよびPublic Health England
変異株 | 流行期間 | 感染者数 | 死亡者数 | 死亡率 |
武漢株 | ~2020.11.30 | 1,629,657 | 58,448 | 3.59% |
アルファ | 2020.12.01~ 2021.04.30 | 2,773,537 | 68,466 | 2.5%* |
デルタ | 2021.05.01~ 2021.11.30 | 5,810,242 | 17,445 | 0.3% |
オミクロン | 2021.12.01~ 2022.01.30 | 6,255,086 | 11,339 | 0.18%** |
インフルエンザ | 通年 | -- | -- | ~0.1% |
* コロナワクチン接種は12月3日に開始
**一部デルタ感染者数が含まれる場合があり
表2は、英国の1月の「ワクチン接種者の死亡率」。どの年代も、3回接種者の死亡率は低い。2回接種の死亡率と比べると、40~80歳代の低下が顕著。70歳代においては、20分の1程度になっている。
表2.死亡率の比較(データソース:UKHSA)
年齢 | 死亡率(%) 接種3回 | 死亡率(%) 接種2回 | 3回接種者と比べた未接種者の死亡率の割合 |
18-29 | 0.001 | 0.0105 | 13.3 倍 |
30-39 | 0.005 | 0.0115 | 12.9倍 |
40-49 | 0.006 | 0.021 | 24.7倍 |
50-59 | 0.018 | 0.126 | 40.6倍 |
60-69 | 0.086 | 0.9288 | 34.2倍 |
70-79 | 0.349 | 6.247 | 24.7倍 |
>80 | 2.129 | 14.0514 | 10.5倍 |
死亡率の低下の要因は、早期のワクチン接種にある。イギリスは国を挙げて迅速に接種を進めたことから、接種率は71%程度と高い(2月1日時点)。
日本のワクチン接種率も約80%と負けていない。ただ、イギリスと異なるのは、新型コロナの累積感染者数だ。
イギリスの累積感染者が442万人(人口比率6・65%)なのに対し、日本は57万人(0・45%)と12分の1程度。イギリス国民は、ワクチンによる免疫に加え、感染で獲得した免疫も持っている人が多い。
他国の規制緩和に追随する動きを望む声が、日本でも高まりつつあるが、こうした他国とは異なる点を見逃してはならない。自国の状況を冷静に見極め、「新型コロナとの共存」に向かうべきだ。
引用文献:
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