セルスペクト(株)科学調査班編集
2022年3月11日更新
最近、新型コロナウイルス感染者に見られる様々な後遺症を「ロング・コビット(Long-COVID)」と総称するようになった。感染の回復後(ウイルスが抜けた後)に倦怠感や味覚障害などが、一か月以上続くことを指し、無症状の感染者でも起こる可能性がある。
英国消化器病学会の月刊医学雑誌「GuT(ガット)」に掲載された香港中文大学の研究によると、回復した感染者の76%に、ロング・コビットの症状が見られた。
最も多い症状は「疲労・倦怠感」31%で、「記憶力の低下」28%、「脱毛」21%、「不安感」21%、「睡眠困難」21%と続く。これらの症状は、何か月も長引く人もいれば、そうでない人もいる。
ロング・コビットの原因はいまだ明らかになっていないが、有力な仮説の一つは、感染時の過剰な免疫細胞の働きから生じる細胞の損傷だ。
感染源となるウイルスや病原菌は、口や鼻から体内に侵入する。そのため免疫細胞は、口から肛門までの消化器官に最も集まっている。
同大学の発表によると「免疫細胞の過剰反応は、消化器官の一部である腸内の細菌のバランスが乱れること(悪玉菌の増加)によって起こる」という。つまり、腸内環境の乱れがロング・コビットを引き起こすというのだ。
腸内環境(腸内フローラ※)の乱れは、結腸癌や心臓疾患、関節リウマチなどの慢性疾患の発症と関連があると言われてきたが、新型コロナの後遺症にも関連しているかもしれないとは驚きだ。
※多種多様な腸内の微生物、菌が集まる集合体の分布
腸内環境が乱れると、腸の消化・吸収力が落ち、身体が栄養素を取り入れられなくなったり、便秘や下痢、便が臭うなど、体調に変化が現れる。ロング・コビット発症者も、同様の症状が見られた。一方、ロング・コビットにならなかった人は腸内環境の乱れがなかった。
さらに、各器官の後遺症と腸内細菌の関係性を調べたところ、呼吸器の後遺症患者はA細菌の乱れ、神経系の後遺症患者はB細菌の乱れが見られるといったように、後遺症の箇所によってバランスが崩れている腸内細菌が異なった。
つまり、どの腸内細菌が乱れているかで、どの器官に後遺症が現れるか予測できるということだ。
上記は、まだ少数の検証結果のため、軽症でロング・コビットになった感染者も含めた大規模な検証が必要だ。
このメカニズムが明確になれば、腸内環境を健全に保つことで、ロング・コビットを防げることになる。
呼吸器の症状だけを追いかけていたロング・コビットの研究で、今回の研究結果は、新しい視点の興味深い発見。研究の進展に期待したい。
引用文献:
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